このページの要点
- 事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項、故意・重大な過失による責任の一部を免除する条項は、消費者との契約では無効(消費者契約法8条1項1号・2号)。
- 賠償の上限を定める場合は、故意・重大な過失を除くことを明記する。軽過失に限る旨を書かずに上限を定める条項は、その条項全体が無効になり得る(同法8条3項)。
- 賠償は、新品の価格ではなく時価・修理費を基準にすることや、申告の期限、損害の確認の方法を決めておく。
- 賠償責任保険に加入し、保険の対象外になる物(現金・貴金属・美術品など)を規約で事前に示す。
トラブルは3つに集まる
家事代行のトラブルは、①物を壊した、②物がなくなった、③仕上がりが期待と違った、の3つにほぼ集まります。どれも、丁寧に作業していても起こり得るものです。だからこそ、起きたときの手順と責任の範囲を、規約であらかじめ決めておきます。
| トラブル | 起きやすい場面 | 規約で決めておくこと |
|---|---|---|
| 物を壊した | 食器・家電の破損、床や壁の傷、洗濯物の縮み・色落ち | 申告の期限、賠償の基準(時価・修理費)、上限、保険 |
| 物がなくなった | アクセサリー・現金・書類が見当たらない | 貴重品の保管のお願い、申出の手順、調査への協力、警察への相談 |
| 仕上がりの不満 | 掃除の漏れ、料理の味付け、片付けの位置 | 申出の期限、再作業の扱い、金銭の補償をするかどうか |
「一切責任を負いません」は無効になる
家事代行の利用者の多くは消費者です。消費者との契約では、事業者の損害賠償責任を全部免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項1号・3号)。故意又は重大な過失による責任の一部を免除する条項も無効です(同項2号・4号)。責任の有無や限度を事業者が決める権限を自らに与える条項も、同じ扱いになります。
さらに、令和5年6月から、賠償の上限を定めるなど責任の一部を免除する条項で、軽過失の場合にだけ適用されることを明らかにしていないものは無効とされました(同法8条3項)。「当社の賠償は料金額を上限とします」とだけ書くと、故意や重大な過失の場合にまで上限が及ぶように読めるため、上限の条項そのものが使えなくなるおそれがあります。
事務所の改訂例:賠償の上限の書き方
上限の条項
改訂前利用者の指示に起因する損害について、当社の賠償責任は当該サービスの料金額を上限とします。(依頼者原案)
改訂後当社の軽過失に起因する損害について、当社の賠償責任は当該サービスの料金額を上限とします。ただし、当社の故意又は重大な過失に起因する損害、及び生命・身体に生じた損害については、本項の上限は適用しません。
軽過失に限ることを明示し、故意・重大な過失を除くことで、消費者契約法8条3項の要件を満たします。生命・身体の損害を上限の外に出すことは条文上の要件ではありませんが、上限条項の有効性を守るうえで有用です。
保険との関係
改訂前当社は対人・対物の賠償責任保険(保険金額○円)に加入しています。(依頼者原案)
改訂後当社は、賠償責任を履行するための備えとして、賠償責任保険に加入しています。保険の金額は、当社の賠償責任の上限額を意味するものではありません。
保険金額だけを書くと、利用者が「上限」と読むか、事業者が「保険の範囲で対応すればよい」と誤解しがちです。保険は備えであって上限ではないことを書きます。
有事に最も通りにくい条文の例
依頼者の原案で見かけた、次のような条文は、有事にほぼ通りません。
条文例避けたい条文の例(依頼者原案を一般化)
- 当社は、当社の故意又は重大な過失に起因することが明確に立証された場合に限り、当社が加入する損害賠償保険の補償範囲内において、直接かつ通常の損害についてのみ賠償責任を負うものとします。
この一文には、①軽過失の全部免除(消費者契約法8条1項1号・3号)、②賠償額を保険の査定に委ねる構成(責任の限度を事業者側が決める権限に近い)、③利用者に重い立証責任を負わせる点(同法10条)が重なっています。どれか一つでも問題になる条項を三つ重ねると、条項全体が否定される危険が高まります。
事故のときの記録が、事業者を守る
賠償の話合いで最後に頼りになるのは、記録です。作業の前後の写真、入室・退室の時刻、スタッフの報告、利用者との連絡の履歴が残っていれば、「いつ、どこで、何が起きたか」を確かめることができます。事故が起きたら、スタッフは直ちに事業者に報告し、事業者は利用者に事実を伝え、保険会社にも期限内に事故を報告します。保険会社への報告が遅れると、保険金が支払われないことがあるからです。
- 事故・破損に気づいたら、その場で作業を止め、利用者に伝える
- 破損した物と周囲の状況を写真に撮る
- 事業者に報告し、事業者が利用者に今後の流れを説明する
- 保険会社に事故を報告し、必要な資料(写真・購入時期・修理の見積り)をそろえる
- 原因を確認し、再発防止の措置を利用者に伝える
事故や苦情があった案件の記録は、解決するまで消去しないことも、規約とスタッフとの契約に書いておきます。
賠償の基準:新品の価格か、時価か、修理費か
物を壊した場合の損害は、原則として、その物の時価(壊れた時点の価値)又は修理費が基準になります。新品の購入価格がそのまま損害になるわけではありません。規約に基準を書いておくと、利用者との話合いが早く進みます。
- 修理ができるものは修理費を基準とし、修理費が時価を超える場合は時価を限度とする
- 経年劣化や素材の性質による損傷(変色・シミが落ちない・古い家具の破損)であって、事業者の過失によらないものは補償の対象外とする
- 破損に気づいたスタッフは、その場で利用者に報告し、写真を撮る
- 利用者からの申出は、作業の日から一定の期間内(例:7日以内)に受け付ける
- 賠償の前に、破損した物の確認(現物・写真・購入時期の資料)に協力してもらう
経年劣化を補償の対象外とする項目は、「当社の過失がない限り」と同じ意味であることが分かるよう、「経年劣化等による損傷であって、当社の過失によらないもの」と書く方が安全です。過失による破損まで対象外とする書き方に読まれると、全部免除の問題になります。
物がなくなったと言われたとき
「作業の後から指輪が見当たらない」という申出は、家事代行で最も対応が難しいトラブルの一つです。スタッフが疑われる形になるので、感情的な対立になりやすく、事業者としてはスタッフを守りながら、利用者の申出にも誠実に対応する必要があります。
紛失の申出を受けたときの対応
- 申出の受付
申出の日時、なくなった物、最後に見た時期と場所、作業の日時と担当スタッフを記録する。
- スタッフからの聞き取り
作業の場所と内容、触れた物、退室時の状況を聞く。決めつけた聞き方をしない。
- 一緒に探す
家具の隙間、洗濯物の中、ゴミの分別の場所など、作業で移動させた可能性のある場所を利用者と確認する。
- 警察への相談
盗難の疑いがある場合は、利用者に警察への相談を勧め、事業者も調査に協力する。
- 結果の報告
確認した内容と結論を利用者に報告する。保険の対象になるかを保険会社に確認する。
規約には、貴重品の保管を利用者にお願いする条項と、スタッフの故意・過失による紛失については事業者が責任を負う条項の両方を書きます。前者だけを書いても、事業者の責任がなくなるわけではありません。賠償責任保険には、現金・貴金属・美術品などを補償の対象外とするものが多いので、保険の対象外になる物を規約で事前に示し、作業の場所から離してもらうようお願いしておきます。
仕上がりの不満と再作業
時間制の家事代行は準委任の性質が強く、仕上がりそのものを保証する約束ではありません。それでも、明らかな掃除の漏れなどは、事業者として対応するのが信頼の面からも望ましいところです。
条文例第◯条(サービスへのお申出)
- 利用者は、サービスの内容に不備があると考えるときは、サービスの実施日の翌日までに、当社所定の方法により、不備の内容を写真等とともに申し出るものとします。
- 当社は、前項の申出を確認し、当社の責めに帰すべき不備があると認めるときは、次回の訪問時その他当社と利用者が協議して定める日時に、当該部分の再作業を行います。
- 前項の再作業を行うことが困難な場合は、当社は、当該部分に相当する料金の範囲で返金その他の措置を協議します。
申出の期限と確認の方法を決めると、時間が経ってからの申出や、作業と関係のない汚れについての申出を整理できます。再作業ができない場合の扱いも書いておくと、話合いの出口ができます。
保険の選び方と、規約への書き方
家事代行の事業者が加入を検討する保険は、主に次のようなものです。保険の内容は保険会社や契約によって異なるので、規約に書く前に、保険証券と約款で確認します。
| 保険 | 主に備える場面 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 賠償責任保険(施設・業務遂行) | 作業中に利用者の家財を壊した、利用者や家族にけがをさせた | 対人・対物の保険金額、免責金額、補償されない物(現金・貴金属など) |
| 受託物の補償 | 預かった物(鍵・鍵以外の預かり品)の紛失・破損 | 鍵の紛失による錠の交換費用が対象になるか |
| 傷害保険 | スタッフ自身のけが | 業務委託のスタッフも対象にできるか |
業務委託のスタッフについては、フリーランス法の施行にあわせて、労災保険の特別加入の対象が広げられています。スタッフ本人のけがへの備えを、特別加入や本人の傷害保険で求めるのか、事業者が保険をかけるのかも決めておきます(スタッフとの業務委託契約書)。
保険の「被保険者」と「免責の事由」も確認する
保険を確認するときは、保険金額だけでなく、誰が被保険者か、どのような場合に保険金が支払われないか(免責の事由)も見ます。職能団体を通じて加入する賠償責任保険は、会員個人が被保険者で、法人としての契約上の責任や、他のスタッフの行為は対象外になっていることがあります。スタッフを抱える事業者は、法人として加入する保険を検討します。
また、「業務の結果を保証したことによって加重された賠償責任」を保険金の支払の対象外とする約款もあります。規約で「仕上がりを保証します」「満足いただけなければ全額返金」と約束すると、その部分は保険で賄えないことがあります。準委任として、成果を保証しない書き方にそろえておくことは、保険を使えるようにする意味でも大切です。
規約の上限が、保険の補償を封じていないか
規約に定めた賠償の上限が、加入している保険の支払限度額より低いと、保険で支払えるはずの損害まで、規約が支払を止めてしまうことになります。保険によっては、法律上の賠償責任がなくても支払われる見舞金の枠があるのに、規約で「過失がなければ一切応じない」と書いているために、使える備えを使えない、ということも起こります。規約の賠償の条項は、保険証券と約款を手元に置いて突き合わせ、保険の対象外になる部分(受託物・現金・外出先の事故など)をどう扱うかまで決めておくと、利用者に「安心」を示せる規約になります。
利用者の側の責任と、不可抗力
トラブルは事業者の側だけに起きるものではありません。子どもがスタッフの持ち物を壊した、利用者の飼っている動物でスタッフがけがをした、という場合の扱いも、規約で決めておきます。ただし、利用者に「故意又は過失の有無を問わず、損害の一切(調査費用・弁護士費用を含む)を賠償する」という重い責任を負わせる条項は、民法の過失責任より重い責任を消費者に課すもので、消費者契約法10条の検討の対象になります。利用者の責任も、故意又は過失がある場合とするのが基本です。
天災、交通機関の混乱、感染症の流行などでサービスを提供できなくなった場合は、事業者は責任を負わない、とする不可抗力の条項も置きます。このとき、「金銭の支払の義務を除く」と書いておかないと、すでに提供したサービスの料金の支払まで免れると読めてしまうので注意します。不可抗力で訪問できなかった場合のキャンセル料の扱いは、定期契約・チケットとキャンセル料で決めた内容とそろえます。鍵の紛失の場面は鍵の預かりで扱っています。
スタッフのミスの負担:事業者とスタッフの分担
スタッフの軽い不注意で物を壊したとき、事業者が利用者に賠償した分をスタッフにどこまで負担させるかも、あらかじめ決めておきます。事業者の賠償責任保険で対応し、スタッフには故意又は重大な過失がある場合に限って求償する、という分担にしておくと、人材の確保の面でも合理的で、使用者の求償を制限した判例の考え方とも整合します。
ご相談の場面から:賠償のトラブルのご相談
- 利用者から、壊れた食器を新品で弁償してほしいと言われました。
- 損害は、原則として壊れた時点の価値(時価)や修理費が基準になり、新品の価格がそのまま損害になるわけではありません。規約に賠償の基準を書いておけば、それを示して話合いを進められます。保険を使う場合は、保険会社の確認の手順に沿って資料をそろえてもらいます。
- 作業の数週間後に「あの日に傷がついた」と言われました。
- 申出の期限を規約に定めていれば、それを基準に整理できます。期限を定めていない場合でも、作業との因果関係は申出の側で示してもらうことになります。今後のために、申出の期限と、作業の前後の写真の記録を運用に取り入れることをお勧めします。
よくあるご質問
家事代行の規約に「破損の責任は一切負いません」と書けますか?
個人のお客様(消費者)との契約では無効です(消費者契約法8条1項1号・3号)。上限を定める場合は、軽過失に限ること、故意・重大な過失による損害は除くことを明記します(同法8条3項)。
賠償の上限は、いくらに設定すればよいですか?
金額に決まりはありませんが、サービスの料金額や保険の内容と関連づけて、説明できる額にします。軽過失に限ること、故意・重大な過失と生命・身体の損害には上限を適用しないことを明記すると、条項の有効性を守りやすくなります。
壊した物は、新品の価格で弁償しなければなりませんか?
原則として、壊れた時点の価値(時価)や修理費が損害の基準になります。規約に、修理費を基準とし時価を限度とすることや、経年劣化による損傷で事業者の過失によらないものは対象外とすることを書いておくと、話合いが早く進みます。
物がなくなったと言われたら、どう対応すればよいですか?
申出の内容を記録し、担当スタッフから決めつけずに聞き取り、利用者と一緒に作業で動かした可能性のある場所を確認します。盗難の疑いがあれば警察への相談を勧め、事業者も協力します。規約には、貴重品の保管のお願いと、スタッフの故意・過失による紛失は事業者が責任を負うことの両方を書いておきます。
保険に入っていれば、規約に賠償の定めは要りませんか?
必要です。保険には補償されない物や免責金額があり、保険でカバーされない部分の扱いは規約で決まります。保険金額は賠償の上限ではないことも、規約に書いておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の事業に必要な条項は、サービスの内容、スタッフとの契約の形(雇用・業務委託)、申込みの受け方、利用者が事業者か個人かによって異なります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた家事代行・ベビーシッター・訪問型サービスの利用規約、申込書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / こども家庭庁 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド