このページの要点
- 労働者かどうかは契約の名前ではなく、仕事を断る自由、指揮監督の有無、時間・場所の拘束、報酬の性格などの実態で判断される。
- スタッフが従業員を使用しない個人ならフリーランス法の対象。業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面又は電子メール等で明示する(同法3条1項)。
- 発注者が特定業務委託事業者(従業員を使用する事業者や、役員が2人以上の法人)なら、報酬の支払期日は役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内で定める(同法4条1項)。
- 利用者のキャンセルによる報酬の扱い、交通費、事故の責任と保険、利用者との直接取引の禁止(期間と範囲を限定)を決める。
業務委託は、契約書だけでは成り立たない
家事代行のスタッフを業務委託で確保する事業者は少なくありません。雇用に比べて社会保険などの負担がなく、スタッフも自分の都合で仕事を受けられるという利点があります。ただし、業務委託かどうかは契約書の題名では決まりません。実際の働き方が雇用と同じなら、労働基準法上の労働者と判断され、最低賃金、割増賃金、社会保険、労災などの負担が後からまとめて生じることになります。
労働者かどうかの判断の要素
労働基準法上の労働者に当たるかは、昭和60年の労働基準法研究会の報告が示した次の要素などを総合して判断されます。
| 要素 | 雇用に傾く例 | 業務委託に傾く例 |
|---|---|---|
| 仕事の依頼を断る自由 | シフトを会社が決め、断ると不利益がある | 案件ごとに受けるかどうかを自分で決められる |
| 業務の遂行への指揮命令 | 作業の手順・順番・時間配分まで細かく指示される | 求める仕上がりの水準だけが示され、進め方は本人が決める |
| 時間・場所の拘束 | 勤務時間が管理され、待機を求められる | 受けた案件の時間だけ訪問すればよい |
| 代わりの人に任せられるか | 本人以外は一切認められない | 一定の条件で補助者や代わりの人に任せられる |
| 報酬の性格 | 時間給で、働いた時間に比例する | サービスの区分ごとの定額など、役務の対価として決まる |
| 事業者としての性格 | 用具・洗剤・制服をすべて会社が支給する | 自分の用具を使い、自分の判断で費用を負担する |
大工の労働者性が争われた事件で、最高裁は、寸法や仕様についてある程度細かな指示を受けていても、工法や作業手順の選択が本人に委ねられていたことなどから、労働者に当たらないと判断しました(最判平成19年6月28日)。細かな指示があること自体が直ちに雇用の決め手になるわけではなく、「どのような状態にするか」を指定することと、「どのように行うか」を指示することは区別して考えられる、という点が、業務委託を維持する設計の拠り所になります。
マニュアルは「どのように」から「どのような状態に」へ
雇用のスタッフ向けに作った業務マニュアルを、そのまま業務委託のスタッフにも渡している事業者は多いものです。事務所が訪問型サービスのマニュアルを点検した際には、記載を次の3つに分けて整理しました。
| 区分 | 内容の例 | 業務委託のスタッフへの扱い |
|---|---|---|
| そのまま課してよいもの | 法令の遵守、安全、記録、利用者の財産、個人情報 | 仕様書にそのまま入れる |
| 結果の指定に書き換えるもの | 退室時の状態、清掃の仕上げ、報告の様式 | 「どのように行うか」を「どのような状態にするか」に改める |
| 課さないもの | 身だしなみの細かな指定、作業の時間配分、「出勤」「遅刻」など雇用を前提とする言葉 | 業務委託のスタッフ向けの仕様書からは外す |
業務委託のスタッフには、雇用のスタッフ向けのマニュアルとは別に「委託業務仕様書」を作り、契約書に「作業の手順・段取り・時間配分は受託者が定める」「事業者が従業員に用いる社内の教育資料は受託者を拘束しない」と書いておきます。写真や具体例は、手順の指定ではなく「求める水準の例」として残します。
仕組みの方が、言葉より重い
- 業務委託のスタッフが共有のカレンダーで自分の一日の予定(移動の時間まで)を管理されている運用は、案件ごとに受けるという建前と矛盾し、時間の拘束の外形になります。受けた案件だけが表示される形に変えます。
- 入室・退室の時刻の写真は、利用者への報告として合理的でも、事業者が時間の管理に使えばタイムカードと同じになります。「記録を時間の把握・報酬の計算・勤怠の管理に用いない」と契約書に書き、集計表を作らない運用にします。
案件を断る自由を、条文と運用の両方で
条文例第◯条(個別業務の受託)
- 事業者は、受託者に対し、個別業務の内容、日時、場所、報酬の額その他の条件を提示します。
- 受託者は、提示された条件を確認し、自己の判断により、個別業務を受託し、又は辞退することができます。事業者は、受託者が辞退したことのみを理由として、受託者に不利益な評価又は取扱いをしません。
- 受託者が事業者の定める期限までに受託の意思を表示しないときは、当該個別業務を受託しないものとみなします。
- 事業者が複数の個別業務を一括して提示した場合、受託者は、その一部のみを受託することができます。
回答がない場合に「受託したものとみなす」と書くと、断る自由が形だけになります。沈黙は「受けない」とする方向で書きます。
報酬の決め方:時間給にしない工夫
同じ金額でも、報酬の決め方で、労働者性の評価は大きく変わります。事務所が訪問型サービスの業務委託契約を整えた際に、特に注意した点は次のとおりです。
- 「1時間あたり○円」の時間単価は、時間給の外形になります。「1回90分の訪問○円」「120分○円」のように、サービスの区分ごとの定額にします。長い区分ほど1分あたりの単価が下がる表にすると、時間給でないことの裏付けにもなります。
- 「利用料金の○%」という率を契約書に書くと、売上の分配の外形になります。別表に金額だけを書きます。
- 早朝・夜間の加算が、基本額のちょうど25%・50%になっていると、残業代の割増率を連想させます。定額の加算表にし、「深夜割増」「時間外」という言葉は使いません。
- 報酬の引上げを、事業者が貢献度や態度を評価して決める形は、人事考課の外形になります。受託した件数など、条件を満たせば当然に適用される形にします。
- 延長は時間で測るほかないので、「延長1単位につき○円」の加算で差し支えありません。
報酬が税込か税抜かは必ず明記します。インボイスの登録の有無を理由に、一方的に報酬を引き下げることは、買いたたきなどの問題になり得るので避けます。
フリーランス法の対応
スタッフが従業員を使用しない個人(又は一人会社)なら、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の対象です。家事代行の事業者が利用者に提供するサービスの作業をスタッフに依頼することは、役務の提供の委託に当たります。
| 条文 | 内容 | 誰に |
|---|---|---|
| 3条(取引条件の明示) | 業務の内容、報酬の額、支払期日などを、書面又は電子メール等で直ちに明示する | 業務委託をする全ての事業者 |
| 4条(支払期日) | 役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定める | 特定業務委託事業者(従業員を使用する事業者や、役員が2人以上の法人) |
| 5条(禁止行為) | 報酬の減額、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供の要請、不当な変更・やり直し。役務の提供の委託では、受領拒否と返品の禁止は適用されない | 1か月以上の期間行う業務委託(更新により1か月以上となるものを含む)をする特定業務委託事業者(同法施行令1条) |
| 14条(ハラスメント対策) | 相談に応じ、適切に対応するための体制の整備 | 特定業務委託事業者 |
| 16条(中途解除等の予告) | 6か月以上の継続的な業務委託(更新により6か月以上となるものを含む)を解除し、又は更新しない場合の30日前までの予告と、求めに応じた理由の開示(同法施行令3条) | 特定業務委託事業者 |
支払期日の起算点は、役務の提供を受けた日です。「スタッフが完了の報告をした日」や「利用者が確認した日」を起点にすると、60日を超えるおそれがあります。月末締め翌月末払いを採る場合も、締切と支払日の組合せで60日を超えないかを確認します。
利用者からのハラスメントへの対策は、利用者向けの規約の禁止事項(家事代行の利用規約)と、スタッフ向けの相談窓口を対で整えます。相談窓口が代表者本人だけでは相談しにくいので、公的な相談窓口(フリーランス・トラブル110番)も併記しておくと、体制として厚みが出ます。
代わりの人に任せられるか(再委託と補助者)
本人以外の人が仕事をしてよいか(代替性)は、業務委託かどうかの判断で重視される要素の一つです。何でも事業者の自由な承認にかからせると、本人以外は認めないのと同じになり、業務委託の性質が弱まります。事務所が手がけた訪問型サービスの契約では、事前の承認制を、「事前の通知と、拒絶できる事由の限定列挙」に組み替えました。
- 受託者は、再委託先・補助者を事業者に事前に通知する(複数の人をあらかじめ登録しておくこともできる)
- 事業者が拒絶できるのは、要件を満たさない場合、反社会的勢力に該当する場合、本人確認が済んでいない場合、利用者が承諾しない場合に限る
- 事業者は遅滞なく本人確認の機会を設け、一定の日数内に回答しないときは、拒絶の事由はないものとみなす
- 再委託先には、鍵・個人情報・秘密保持について受託者と同じ義務を負わせる
利用者の信頼が人に付いているサービス(ベビーシッターや、資格者による支援)では、補助者を使う場合は事業者の承認を得る、とする方が実情に合います。サービスの性質に応じて書き分けます。
同じ人が雇用と業務委託を兼ねる場合
事務のアルバイトとして雇用している人に、別に家事代行の作業を業務委託で頼む、というように、同じ人が雇用と業務委託を兼ねることがあります。時間の管理、指示の系統、報酬の体系が分かれていないと、業務委託の部分にも雇用の指揮命令が及んでいると評価され、未払いの残業代や社会保険のさかのぼりの問題が生じるおそれがあります。契約書の上で両者を分ける文言は行政書士が作れますが、分け方の労務の設計は社会保険労務士に相談します。
利用者のキャンセルと、スタッフの報酬
利用者がキャンセルしたときに、スタッフへの報酬をどうするかは、トラブルになりやすい点です。キャンセル料の割合ごとに個別に決めるより、背後にある原則を一文にしておくと、料金体系が変わっても条文が使えます。
条文例第◯条(利用者の取消しと報酬)
- 利用者の都合により個別業務が取り消され、事業者が利用者からキャンセル料を受領したときは、事業者は、受託者に対し、当該個別業務の報酬の額に、利用者に適用されたキャンセル料の割合を乗じた額を支払います。
- 事業者の都合により個別業務を取り消すときは、取消しの時期に応じて別表に定める額を支払います。受託者が移動を開始した後の取消しの場合は、移動費相当額を加算します。
事業者の都合による取消しで報酬をゼロにする設計は、受領拒否の禁止が役務の提供の委託に適用されないとしても、発注の取消しに伴う費用を負担しないことが不当な給付内容の変更(フリーランス法5条2項2号)に当たり得るので避けるべきです。
請求書の代わりに「支払通知書」を使う
業務委託のスタッフが多くなると、毎月スタッフから請求書を受け取る事務が負担になります。事業者が月ごとに集計して「支払通知書」を交付し、スタッフがそれを確認する方式もよく使われます。この方式をとるなら、契約書に次の事項を書いておきます。
- 事業者が締切日に集計し、一定の日数内に支払通知書を交付すること
- スタッフは受け取ってから一定の日数内に、相違がない旨又は異議を回答し、双方が記録を保存すること
- 回答がなくても、支払期日までに支払うこと(確認を待って支払を遅らせない)
- 異議があった場合は、争いのない部分を期日に支払い、認められた部分は遅延損害金を付して支払うこと
- 記載事項(案件ごとの実施日・業務内容、税率ごとの合計額と消費税額、対象期間など)
名前にも注意します。「支払明細書」は、給与の支払について法令で使われる言葉なので、給与の外形を避けるために「支払通知書」と呼ぶ方が無難です。消費税の仕入税額控除の根拠として使えるかの判断は、税理士に確認します。鍵を持ち歩くスタッフとの鍵の条項は鍵の預かり、スタッフに渡す個人情報の条項は家庭の情報の扱いで解説しています。
利用者との直接取引の禁止
スタッフが利用者と直接契約して、事業者を通さずに仕事を受けるようになると、事業者は顧客を失います。スタッフとの契約に、直接取引の禁止を置きます。ただし、広すぎる制限は有効性が争われやすいので、範囲と期間を絞ります。
事務所の改訂例:直接取引の禁止の範囲
禁止の範囲と期間
改訂前受託者は、本契約の終了後も期間の定めなく、事業者の顧客と同種又は類似の取引をしてはなりません。(依頼者原案)
改訂後受託者は、本契約の期間中及び終了後1年間、事業者の紹介により知り得た顧客と、事業者の承諾なく、同種又は類似のサービスに関する契約を直接締結してはなりません。ただし、本契約の締結前から受託者が自ら取引関係を有していた顧客については、この限りでありません。
対象を「事業者の紹介で知った顧客」に、期間を終了後1年に限り、もともとの顧客を除外すると、有効性が認められやすくなります。期間は一般の存続条項に任せず、この条文の中で決めておきます。
個人のLINEやメールの連絡先を利用者に伝えることも、直接取引の入口になります。「利用者との連絡は事業者の公式アカウントを通じて行い、個人の連絡先を伝え、又は誘導しない」と書いておきます。
事故の責任と保険の分担
スタッフの不注意で利用者の家財を壊した場合、利用者に対して賠償するのは事業者です。事業者がスタッフにどこまで負担を求めるかは、契約で決めておきます。事業者の賠償責任保険で対応し、スタッフには故意又は重大な過失がある場合に限って求償する、という分担が、使用者の求償を制限した判例の考え方とも整合し、スタッフを集めるうえでも合理的です。スタッフ自身のけがについては、労災保険の特別加入(フリーランス法の対象となる個人事業者も加入できるようになっています)や、民間の傷害保険で備えることを、加入の要件にするか推奨にとどめるかを決めます。
ご相談の場面から:スタッフとの契約のご相談
- 業務委託のスタッフにも、雇用のスタッフと同じマニュアルを渡しています。
- 法令・安全・個人情報・利用者の財産に関する部分は、そのまま渡して差し支えありません。手順や時間配分、身だしなみまで細かく定めた部分は、業務委託のスタッフ向けの仕様書に作り直し、「どのように行うか」ではなく「どのような状態にするか」で書きます。同じ人が雇用と業務委託を兼ねる場合は、時間管理や指示の系統を分ける必要があり、その設計は社会保険労務士にご相談ください。
- スタッフへの報酬を時給で決めています。業務委託でも問題ありませんか?
- 時間単価は、労働者性を補強する要素になります。サービスの区分ごとの定額にし、延長だけを単位あたりの加算にするのが無難です。金額を変えずに表の形を組み替えるだけでも、契約書の上での見え方は大きく変わります。
よくあるご質問
家事代行スタッフを業務委託にすれば、労働基準法はかかりませんか?
労働者かどうかは契約の名前ではなく、仕事を断る自由、指揮監督の有無、時間・場所の拘束、代わりの人に任せられるか、報酬の性格などの実態で判断されます。実態が雇用なら、業務委託契約書を交わしていても労働基準法が適用されます。
業務委託のスタッフに、フリーランス法は適用されますか?
スタッフが従業員を使用しない個人(又は一人会社)なら対象です。業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面又は電子メール等で明示する義務は、業務委託をする全ての事業者にかかります(同法3条)。60日以内の支払期日、ハラスメント対策、中途解除の予告などは、特定業務委託事業者にかかります。
スタッフへの報酬は、いつまでに支払えばよいですか?
発注者が特定業務委託事業者なら、役務の提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めます(フリーランス法4条)。完了の報告の日や、利用者が確認した日を起点にしないよう注意します。
スタッフが利用者と直接契約するのを防ぐには、どうすればよいですか?
スタッフとの契約に、事業者の紹介で知った顧客との直接取引の禁止を、期間を限って(例:終了後1年間)定め、もともとの顧客は除外します。個人の連絡先の交換の禁止もあわせて定め、利用者向けの規約にも引抜きの禁止を置きます。
スタッフのミスで賠償した場合、スタッフに全額を請求できますか?
使用者の求償は、判例上、損害の公平な分担の見地から信義則上相当な限度に制限されます。事業者の賠償責任保険で対応し、スタッフには故意又は重大な過失がある場合に限って求償する、と契約で決めておくのが一般的です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の事業に必要な条項は、サービスの内容、スタッフとの契約の形(雇用・業務委託)、申込みの受け方、利用者が事業者か個人かによって異なります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた家事代行・ベビーシッター・訪問型サービスの利用規約、申込書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / こども家庭庁 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド