家事代行の起業・開業と、最初に整える契約書

家事代行は、資格や許可がなくても始められる仕事です。その分、利用者との約束を書面にしておかないと、トラブルのときに頼れるものがありません。

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お客様の家に入り、家財に触れ、鍵を預かる仕事です。「何をして、何をしないか」「壊したらどうするか」を決めないまま始めると、最初の事故で事業が止まります。

このページの要点

  • 家事代行を自社のスタッフで提供する形(請負・準委任)なら、営業の許可は要らない。家政婦を紹介して家庭に雇わせる形は有料職業紹介になり、厚生労働大臣の許可が必要(職業安定法30条1項)。
  • 利用規約・申込書で、作業の範囲とできない作業、料金と支払時期、キャンセル料、鍵・貴重品の扱い、破損時の賠償と保険を決める。
  • 個人として依頼する利用者(消費者)との契約では、事業者の責任を全部免除する条項や、平均的な損害を超えるキャンセル料は無効になる(消費者契約法8条・9条1項1号)。
  • スタッフを雇うのか、業務委託で依頼するのかを最初に決める。業務委託なら、フリーランス法の取引条件の明示が必要になる。

家事代行は、許可がなくても始められる。だから書面が要る

掃除・洗濯・料理・整理整頓・買い物などの家事を、利用者の家に出向いて行うサービスは、営業の許可や届出がなくても始められます。個人事業主として一人で始める人も、最初から法人で始める人もいます。一方で、利用者の家に入り、家財に触れ、ときには鍵を預かる仕事です。物が壊れた、物がなくなった、頼んだことをしてもらえなかった、という場面は、どれほど丁寧に仕事をしていても起こります。

許可という外枠がない分、事業者と利用者の約束を形にするのは、利用規約と申込書(サービス利用契約書)だけです。開業の準備のうち、書面の準備を後回しにしないことが、このガイドの出発点です。

最初に決めるのは「誰が、誰と契約するか」

家事代行の事業の組み方は、大きく分けて次の4つがあります。どの形を選ぶかで、必要な許可も、作る契約書も、事故のときに責任を負う人も変わります。

家事代行の事業の4つの形
形利用者と契約する人働き手との関係許可
サービス提供型事業者事業者が雇用するか、業務委託で依頼する原則として不要
家政婦紹介型家庭と働き手が直接雇用契約を結ぶ事業者は雇用のあっせんをするだけ有料職業紹介の許可(職業安定法30条1項)
派遣型事業者が派遣契約を結ぶ事業者が雇用し、利用者の指揮命令で働かせる労働者派遣事業の許可
マッチング型利用者と働き手(個人事業主)が直接、業務委託契約を結ぶ運営者は場を提供する原則として不要(雇用のあっせんにならない設計が前提)

これから家事代行を始める人の多くは、一つ目の「サービス提供型」を選びます。利用者から家事を引き受けるのは事業者で、実際に作業するのは自分自身か、自社のスタッフです。この形なら、職業紹介でも派遣でもないので、営業の許可は要りません。形ごとの違いは、家事代行の許可:請負・紹介・派遣の違いで詳しく解説しています。

開業の前にそろえる書類

サービス提供型で始める場合に、開業の前にそろえておきたい書類は次のとおりです。全部を最初から完璧に作る必要はありませんが、表の最初の4つ(利用規約・申込書・サービス内容一覧と料金表・特商法表記)は、最初の利用者と契約する日までに必要です。

家事代行の開業時にそろえる書類
書類役割いつ使うか
利用規約全利用者に共通するルール。作業範囲、料金と支払、キャンセル、鍵、賠償、禁止事項、解約申込みの前に示し、同意を得る
申込書(サービス利用契約書)利用者ごとの条件。対象の住所、作業内容、頻度、料金、支払方法契約の成立時
サービス内容一覧・料金表できること・できないこと、料金・延長・交通費規約の別紙として
特定商取引法に基づく表記Webサイトで申込みを受ける場合の法定の表示Webサイトに常時掲載
プライバシーポリシー住所・家族構成・家の中の情報の取扱いWebサイトに掲載し、申込み時に示す
鍵お預かり同意書鍵の種類・本数・保管方法・紛失時の対応・返却鍵を預かる利用者ごとに
スタッフとの契約書雇用なら雇用契約、業務委託なら業務委託契約書スタッフが作業を始める前

書類を作る順番のコツ

  • 最初に作るのはサービス内容一覧と料金表です。何をして何をしないか、いくらかが決まらないと、規約も申込書も書けません。
  • 規約・申込書・料金表・特商法表記の4つで、料金と交通費の呼び方と金額を同じにします。同じ費用を書類ごとに別の名前で呼ぶと、後から「聞いていない」と言われます。
  • 鍵を預からない方針で始めるなら、規約に「鍵はお預かりしません」と書いておきます。後から預かるようになったら、同意書とあわせて規約を改めます。

サービスの範囲は「一覧表」で決める

家事代行の規約で最も大切なのは、何をして、何をしないかの線引きです。規約の本文に「家事全般」と書くだけでは、現場で何を頼まれても断る根拠がありません。事務所が手がけた家事代行の規約では、作業の範囲を本文で決めず、「サービス内容一覧」という別紙の表にまとめる形が、最も運用しやすい型でした。

サービス内容一覧の作り方(例)
作業対応条件・備考
掃除・洗濯・料理・整理整頓・ゴミ出し○基本料金に含む
買い物代行○購入代金は実費。スタッフは立替えをしない(事前に小口現金を預かるか、振込)
高い場所・脚立を使う作業×安全上の理由で行わない
エアコンの分解洗浄などの専門清掃×専門業者を案内する
スタッフの指名・当日の予約・洗剤の持込み△相談に応じるが、対応と料金は保証しない
医療行為・介護保険の身体介護×資格・制度の対象外

「○=対応する」「△=条件付き」「×=対応しない」の3つで整理し、×には理由を一言添えます。理由があると、スタッフが現場で断るときに説明がしやすく、利用者も納得しやすくなります。△の条件は、「次の全ての条件を満たす場合に限る」と書くと、スタッフごとに判断がぶれません。

請負か準委任か:家事代行は準委任と書くのが素直

家事代行の多くは「1回3時間」「30分延長」という時間制で料金を決めます。約束しているのは、一定の時間、利用者の家で家事をすることで、「部屋をこの状態に完成させる」ことではありません。こうした約束は、事務の処理を任せる準委任(民法656条・643条)と整理するのが素直です。

準委任と請負の違い(家事代行の場面で)
項目準委任(時間制の家事代行)請負(専門清掃など)
約束の中身一定の時間、家事を行うこと特定の箇所を清掃済みの状態にすること
仕上がりに不満があるとき善良な管理者の注意を尽くしたかが問われる契約の内容に適合しているかが問われる
途中で終わったときの報酬すでにした履行の割合に応じて請求できる(民法648条3項)可分な部分の給付で注文者が利益を受けるなら、その割合で請求できる(同法634条)
契約の解除各当事者がいつでも解除できる。不利な時期の解除は損害賠償(同法651条)注文者は完成前ならいつでも損害を賠償して解除できる(同法641条)

準委任として組むなら、規約に「成果物」「納品」「検収」といった請負の言葉を入れないようにします。汎用のひな形から始めると、こうした言葉がそのまま残りがちです。エアコンの分解洗浄のように、仕上がりを約束する専門清掃を一緒に扱う場合は、サービスごとに性質と仕上がりの扱いを書き分けます。

スタッフの身元確認と、規約に書く「スタッフの要件」

利用者が家事代行を選ぶとき、最も気にするのは「どんな人が家に来るのか」です。規約やホームページに、スタッフの要件として、身元の確認(住民票や身分証の提示)、事業者所定の研修の修了、秘密保持の誓約などを示しておくと、利用者の安心につながります。

ただし、書いた要件は実態と一致させる必要があります。依頼者の規約で、研修の時間を具体的な数字で書いていたものの、実際の研修の運用とずれていた例がありました。協議のうえ、「当社所定の研修と安全の確認を修了し、担当するサービスについて当社の承認を得ている」という、実態に合った書き方に改めています。規約に書いた要件が実態と違うと、それ自体が事実と異なる表示の問題になります。

個人のお客様との契約で、無効になる条項

家事代行の利用者の多くは、事業のためでなく個人として依頼する消費者です。消費者との契約には消費者契約法がかかり、事業者に有利すぎる条項は、規約に書いても効力が認められません。開業時の規約で特に注意したいのは次の3つです。

  • 事業者の損害賠償責任を全部免除する条項(消費者契約法8条1項1号・3号)。「当社は一切の責任を負いません」は、個人のお客様との関係では無効です。
  • 賠償の上限を定める条項で、軽過失の場合に限ることを明らかにしていないもの(同法8条3項)。故意・重大な過失を除くことを書かないと、上限の条項そのものが使えなくなるおそれがあります。
  • 解除に伴うキャンセル料のうち、平均的な損害を超える部分(同法9条1項1号)。当日キャンセル100%と書く場合は、その根拠を説明できるようにしておきます。

賠償の書き方は破損・紛失の賠償と保険、キャンセル料の決め方は定期契約・チケットとキャンセル料で詳しく扱います。

申込みの受け方で、特定商取引法の扱いが変わる

家事代行は利用者の家でサービスを提供するので、「訪問販売になるのでは」と心配する人がいます。訪問販売かどうかは、サービスをどこで提供するかではなく、どこで申込みを受け、契約を結んだかで決まります。

申込みの経路と、特定商取引法の扱い

  1. Webサイト・LINE・メールで申込み

    通常は通信販売。特定商取引法に基づく表記をWebサイトに置く。法定のクーリング・オフの制度はない。

  2. 利用者の家で、その場で契約

    原則として訪問販売。法定の書面を交付し、8日間のクーリング・オフ(特定商取引法9条)の対象になる(利用者が自ら自宅での契約を求めて訪問を依頼した場合は除外。同法26条6項1号)。

  3. 事業者から電話をかけて勧誘し、電話で申込み

    電話勧誘販売。法定の書面とクーリング・オフ(同法24条)の対象になる。

見積りや初回の打合せで利用者の家を訪問する場合は、その場で契約を結ぶかどうかで扱いが分かれます。開業の時点で、どの経路で申込みを受けるかを決め、その経路に合った書類を用意しておきます。

料金表の作り方:後から揉めない書き方

開業のときに最も時間をかけたいのが料金表です。料金表は、規約や申込書から参照される「別紙」として作り、利用者が見て計算できる形にします。基本料金のほか、延長料金、訪問交通費、早朝・夜間の加算、キャンセル料、鍵の管理料、支払の方法ごとの手数料を一つの表にまとめます。

交通費は「実費」とだけ書くと、訪問のたびに金額が変わり、請求のときに説明が必要になります。予約を確定する前に定額で示し、それを超える実費(有料道路・駐車場など)は事前に承認を得たものに限る、という形にすると、利用者にも分かりやすくなります。料金を改定するときの手続(事前の通知、大幅な改定の場合の同意)は規約に書き、料金表には「本料金表は規約に従う」と書いておくと、書類の優先関係がはっきりします(家事代行の利用規約)。

買い物代行のように、利用者の代わりにお金を使う作業がある場合は、スタッフが立て替えないこと、事前に小口の現金を預かるか振込で受けること、レシートを保存して精算することを料金表の欄外に書きます。立替えを認めると、スタッフの金銭の管理と利用者との精算のトラブルが増えます。鍵を預かる場合の料金と条件は、鍵の預かりのページで解説しています。

保険と、スタッフとの契約

家財を壊した、子どもにけがをさせた、という事故に備えて、賠償責任保険に加入しておきます。保険の内容を規約に書くときは、保険金額が「賠償の上限」と読まれないよう、「賠償責任を果たすための備えであり、賠償の上限を意味するものではない」と添えておくと誤解を防げます。

スタッフを雇うのか、業務委託で依頼するのかも、開業前に決めておきます。業務委託にするなら、契約書の書き方だけでなく、指示の出し方や報酬の決め方も業務委託にふさわしい形にそろえる必要があります(家事代行スタッフとの業務委託契約書)。雇用にする場合の労働条件通知書や就業規則は、社会保険労務士の業務です。

ご相談の場面から:家事代行の開業前のご相談

一人で始めるので、規約は簡単なものでよいと思っています。最低限、何を書けばよいですか?
作業の範囲と行わない作業、料金と支払時期、キャンセル料、破損時の対応、鍵を預かるかどうか、の5つは最低限必要です。一人で始める場合でも、事故やキャンセルのときに頼れるのは規約だけです。分量を抑えるなら、細かな手順は料金表やサービス内容一覧に移し、規約本文は紛争のときに必要なルールに絞ります。
知り合いからの紹介だけで仕事を受けています。それでも規約は必要ですか?
必要です。紹介で始まった関係ほど、料金やキャンセルの話をしにくく、トラブルになったときに関係がこじれやすくなります。最初の申込みの時点で規約を示し、同意をもらっておくと、後から条件を伝える手間もなくなります。
高齢のご家族のための家事代行を、遠方に住むお子さんから頼まれました。誰と契約すればよいですか?
費用を負担する人(お子さん)と、サービスを受ける人(高齢のご家族)を分けて申込書に書きます。サービスを受ける人の健康状態などの情報を扱う場合は、誰から同意を得るかも決めておきます。判断能力に不安がある場合は、法定代理人の同意など、契約の有効性を確保する手順も検討します。

よくあるご質問

家事代行を個人事業主として始めるのに、許可は必要ですか?

自分自身や自社のスタッフが利用者から家事を引き受けて作業する形なら、営業の許可は必要ありません。家政婦を紹介して家庭に雇わせ、手数料を受ける形は有料職業紹介に当たり、厚生労働大臣の許可が必要です(職業安定法30条1項)。

家事代行の開業時に、最低限そろえる書類は何ですか?

利用規約、申込書(サービス利用契約書)、サービス内容一覧と料金表です。Webサイトで申込みを受けるなら特定商取引法に基づく表記、個人情報を受け取るならプライバシーポリシーも必要です。鍵を預かるなら鍵お預かり同意書を用意します。

家事代行の契約は、請負と準委任のどちらで書けばよいですか?

時間制で家事を行うサービスなら、準委任(民法656条)と整理するのが素直です。仕上がりを約束する専門清掃は請負の性質が強いので、一つの規約で扱う場合はサービスごとに書き分けます。

家事代行は特定商取引法の規制を受けますか?

申込みの受け方によります。Webサイトで申込みを受ければ通常は通信販売、利用者の家で契約すれば訪問販売、事業者から電話で勧誘して契約すれば電話勧誘販売になります。家事代行は特定継続的役務提供の対象の業種ではありません。

開業前に賠償責任保険に入るべきですか?

入っておくことをお勧めします。家財の破損や、利用者や家族へのけがは、丁寧に仕事をしていても起こり得ます。規約には保険の内容を示し、保険金額が賠償の上限ではないことも書いておきます。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の事業に必要な条項は、サービスの内容、スタッフとの契約の形(雇用・業務委託)、申込みの受け方、利用者が事業者か個人かによって異なります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた家事代行・ベビーシッター・訪問型サービスの利用規約、申込書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / こども家庭庁 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド

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