このページの要点
- 鍵の保管は、預かった物を返す約束(寄託)の要素を含み、報酬を受ける事業者は善良な管理者の注意をもって保管する義務を負う(民法400条・659条参照)。
- 預かり証で、預かった鍵の本数・種類、保管の方法、持ち出せる者、返却の時期を記録し、利用者と事業者の双方が控えを持つ。
- 紛失・盗難が分かったら直ちに利用者に知らせ、交換費用を誰が負担するかを決めておく。
- スマートロックの合鍵機能や暗証番号を使う場合も、付与の範囲、変更の時期、契約終了時の削除を決める。
鍵を預かることは、家と財産を預かること
利用者が不在の間に作業する家事代行では、鍵を預かることがあります。鍵を預かれば、事業者は利用者の家に自由に出入りできる状態になります。利用者にとっては大きな信頼の表れであり、事業者にとっては、紛失・盗難・無断の入室の疑いに備える必要がある場面です。
鍵の預かりを、規約の中の数行の付随的な約束として済ませるのではなく、独立した約束として書くと、紛失したときの責任や返却の義務が明確になります。鍵を物として預かる約束は、預かった物を保管して返す寄託の要素を含みます。報酬を受けて保管するなら、善良な管理者の注意をもって保管する義務を負うと考えておくべきです(民法400条・659条参照)。
鍵の預かりは「3点セット」で組む
事務所が手がけた家事代行の書類で、鍵の預かりを最も整理して扱っていたのは、次の3点を組み合わせる形でした。
| 書類 | 書くこと |
|---|---|
| 規約の本文 | 鍵を預かる場合があること、預かる条件、詳細は鍵お預かり同意書によること |
| 鍵お預かり同意書 | 預かる鍵、期間、保管の方法、紛失時の対応、返却、免責 |
| 料金表 | 鍵の管理料の有無と金額、同じ世帯で重複して請求しないこと、預かりの条件 |
3つの書類に同じ項目を同じ言葉で書くことが大切です。同意書には「専用の金庫で保管」とあるのに、料金表には何も書かれていない、規約には「管理番号で管理」とあるのに同意書にはない、という食い違いがあると、紛失したときにどの約束が守られていたのかが争いになります。
鍵お預かり同意書に書くこと
鍵に住所や氏名を書かないことは、紛失したときに悪用されにくくするための基本です。管理番号と利用者の対応表は、鍵とは別の場所で管理します。
同意書の「責任を負わない場合」の項に、「ただし、当社の故意又は重大な過失による場合はこの限りでない」を入れておくことは欠かせません。消費者との契約で、事業者の故意・重大な過失による責任まで免れる書き方は、消費者契約法8条の問題になるからです。
鍵の管理の実務:持出しと返却の記録
鍵の管理で、後から最も役に立つのは、持出しと返却の記録です。いつ、誰が、どの鍵を持ち出し、いつ返したかが記録されていれば、「鍵がなかった時間帯に誰が持っていたか」をすぐに確認できます。
鍵を預かった訪問の流れ
- 前日まで
訪問の担当スタッフを決め、鍵の持出しの予定を記録する。担当を変える場合も記録する。
- 訪問の日・出発前
管理番号で鍵を持ち出し、持出しの時刻と担当者を記録する。住所の分かるものと鍵を一緒に持たない。
- 入室・作業
入室の時刻を記録する。作業の開始と終了を写真などで報告する場合は、何を撮るかをあらかじめ決めておく。
- 退室
施錠を確認し、確認したことを記録する(扉の写真など)。オートロックの解錠キーの持ち帰り忘れに注意する。
- 帰着後
鍵を金庫に戻し、返却の時刻を記録する。継続して同じスタッフが担当する場合でも、保管の場所は事業者の金庫とする。
入退室の記録の使い方に注意
- 入室・退室の写真や時刻の記録は、利用者への作業の報告として役立ちます。
- 一方、業務委託のスタッフについて、その記録を事業者が勤怠の管理や報酬の計算に使うと、時間の拘束の外形になり、業務委託の性質が崩れます。記録の目的を「作業の報告と鍵の管理」に限ると、契約書にも書いておきます。
紛失・盗難が分かったとき
鍵の紛失で最も避けたいのは、連絡の遅れです。紛失に気づきながら連絡が遅れ、その間に空き巣に入られた場合、事業者が負う責任は、錠の交換費用だけでは済まなくなるおそれがあります。規約と同意書には、次の手順を書いておきます。
- 紛失・盗難が判明したら、直ちに利用者に連絡する(時刻を記録する)
- 警察に遺失届・被害届を出す
- 利用者と相談のうえ、錠の交換を手配する
- 費用の負担を、事業者の過失の有無で決める(事業者の過失による場合は事業者の負担)
- 原因を確認し、再発防止の措置を利用者に報告する
錠の交換費用について、依頼者の原案で「交換費用は利用者の負担とし、その額は○万円を下回らないものとする」と、利用者に下限額を負わせる例を見かけることがあります。利用者の側に落ち度がない場合まで負担させる書き方は、消費者契約法9条・10条の検討の対象になるので、過失のある側が負担する原則で書くのが無難です。
鍵を預からない入室の方法
鍵を預かる管理の負担を避けるために、鍵は預からない方針をとる事業者もあります。その場合でも、利用者が不在のまま作業を頼まれることはあるので、入室の方法をあらかじめ決めておきます。
| 方法 | 決めておくこと |
|---|---|
| 利用者が訪問の時間に在宅して開錠する | 到着が遅れる場合の連絡、作業の終了時の施錠の確認を利用者に頼むこと |
| 利用者が指定する場所(キーボックスなど)から取り出す | 利用者の指定であること、取出しと返却の時刻の記録、指定の方法による被害の扱い |
| 管理会社・家族が開錠する | 開錠する人の連絡先、開錠と施錠の確認の方法 |
どの方法でも、鍵を預からない方針であることを規約に書き、「当社は鍵をお預かりしません。利用者の指定による受渡しの方法については、利用者の責任において指定いただきます(当社の故意又は過失による場合を除きます。)」のように、責任の範囲を明確にしておきます。在宅か不在かで変わる規約の書き方は、家事代行の利用規約で解説しています。
スマートロック・暗証番号・オートロック
物理的な鍵の代わりに、スマートロックの合鍵機能や、暗証番号で入室する方法も増えています。物を預からない分、紛失の心配は減りますが、「誰に、いつまで、どの範囲の権限を与えるか」という問題は残ります。
- 合鍵の権限を付与する相手(事業者のアカウントか、スタッフ個人か)
- 権限の有効な時間帯(訪問の時間帯に限るか)
- 暗証番号を変更する時期(スタッフが交代したとき・契約が終了したとき)
- 契約の終了時に権限を削除し、削除したことを利用者に知らせること
- 暗証番号をメモに残さない・スタッフ間で共有しない、という取扱い
スタッフ個人のスマートフォンに合鍵の権限を付与する運用は、スタッフが辞めたときに権限が残るおそれがあります。事業者が管理するアカウントで付与し、スタッフにはその都度共有する形にすると、管理がしやすくなります。
鍵の管理料を受ける場合の書き方
鍵の管理に料金を受ける場合は、料金表に、月額の管理料、同じ世帯で複数のサービスを利用しても重複して請求しないこと、管理料の対象となる条件(同意書の締結・事業者による預かりの承認・管理番号の発行・持出しと返却の記録の保存・終了時の返却)を並べます。同意書・料金表・実際の運用の3か所で同じ項目をそろえておくと、紛失のときに、約束どおりに管理していたことを示しやすくなります。
スタッフとの契約にも鍵の条項を置く
利用者から預かった鍵を実際に持ち歩くのはスタッフです。スタッフが雇用でも業務委託でも、スタッフとの契約に鍵の条項を置き、利用者との約束を守れる体制にしておきます。
条文例第◯条(鍵の取扱い)
- 受託者は、業務のために預かった鍵を、事業者の定める方法により受け渡し、受渡しの都度その記録を作成します。
- 受託者は、鍵を業務以外の目的に使用し、複製し、撮影し、又は第三者に交付してはなりません。
- 受託者は、鍵を紛失し、又は盗まれたことを知ったときは、直ちに事業者に報告し、事業者の指示に従います。
- 受託者が業務の終了後、事業者の定める期限までに鍵を返還しないときは、事業者は、当該鍵を紛失したものとして必要な措置を講じることができます。
- 本契約が終了したときは、受託者は、保管する鍵を直ちに事業者に返還します。
鍵の紛失の費用を受託者に負担させる場合は、受託者の故意・過失を要件とし、負担額に上限を設けるかどうかも検討します。軽い過失まで全額を負担させると、人材の確保の面でも、契約の有効性の面でも問題が出やすくなります。
鍵の紛失で利用者に賠償した場合の費用を事業者とスタッフでどう分担するかはスタッフとの業務委託契約書、保険の対象になるかは破損・紛失の賠償と保険で扱います。不在の時間帯や鍵の管理の方法は、スタッフとの秘密保持の対象として特に重く扱う情報です(家庭の情報の扱い)。
契約の終了と鍵の返却
契約が終了したら、鍵を返します。当たり前のことですが、返却の期限、方法(手渡し・書留・郵便受け)、返却したことの確認の方法を決めておかないと、「返した」「受け取っていない」の争いになります。郵便受けに入れて返す方法は、利用者が了承した場合に限り、入れた時刻の記録を残します。返却の受領を利用者に確認してもらい、その記録を保存しておくと確実です。
ご相談の場面から:鍵の預かりのご相談
- 鍵の管理料をいただくことにしました。何か変わりますか?
- 鍵の管理に対価を受けるなら、無償で預かる場合よりも重い注意義務を負うと考えて、保管の方法をより具体的に書いておくべきです。料金表には、管理料の金額、同じ世帯で重複して請求しないこと、預かりの条件(同意書の締結・管理番号の発行など)を書き、同意書と内容をそろえます。
- 利用者から「鍵は郵便受けに入れておくので、そこから取って入ってほしい」と言われました。
- 利用者の指定による受け渡しなので、事業者が鍵を保管するわけではありませんが、郵便受けから第三者が取り出すおそれは残ります。その方法で受ける場合は、利用者の指定であること、その方法による被害は事業者の故意・過失による場合を除き責任を負わないことを、同意書に書いておきます。
よくあるご質問
家事代行で鍵を預かるときに必要な書類は何ですか?
鍵お預かり同意書です。預かる鍵の種類と本数、期間、保管の方法、紛失時の対応、返却の方法と期限、責任を負わない場合を書きます。規約の本文と料金表にも同じ項目を同じ言葉で書き、スタッフとの契約にも鍵の条項を置きます。
預かった鍵をなくした場合、事業者はどこまで責任を負いますか?
事業者の過失による紛失なら、錠の交換費用を負担するのが基本です。紛失の連絡が遅れて被害が広がった場合は、それ以上の損害の賠償が問題になるおそれがあります。紛失が分かったら直ちに利用者に連絡し、警察に届け出る手順を決めておきます。
鍵に住所や名前を書いて管理してもよいですか?
避けるべきです。紛失したときに、どの家の鍵かが分かってしまいます。鍵には管理番号だけを付け、番号と利用者の対応表は鍵とは別の場所で管理します。
スマートロックの合鍵機能を使う場合の注意点は?
権限を付与する相手、有効な時間帯、暗証番号を変更する時期、契約の終了時の権限の削除を決めておきます。スタッフ個人ではなく事業者のアカウントで付与すると、スタッフの交代のときにも管理しやすくなります。
鍵の紛失の費用を、スタッフに負担させてもよいですか?
スタッフの故意・過失を要件とし、負担額の上限を検討したうえで定めるのが無難です。軽い過失まで全額を負担させる条項は、有効性が争われやすくなります。事業者の賠償責任保険の対象になるかもあわせて確認します。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の事業に必要な条項は、サービスの内容、スタッフとの契約の形(雇用・業務委託)、申込みの受け方、利用者が事業者か個人かによって異なります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた家事代行・ベビーシッター・訪問型サービスの利用規約、申込書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / こども家庭庁 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド