このページの要点
- 保育士・看護師の資格、又は所定の研修の修了を確認する方法と、更新・現任研修の受講を契約で決める。
- 届出の主体が誰か(事業者か、個人のシッターか)を整理し、届出・報告・書面交付の役割を分担する。
- 保育の記録、事故・ヒヤリハットの報告の期限と方法、利用者への説明への協力を定める。
- シッターが従業員を使用しない個人ならフリーランス法の対象。業務の内容・報酬・支払期日の明示と、利用者との直接契約の禁止の範囲を決める。
契約の中心は、子どもの安全に関わる「記録と報告」
ベビーシッター事業者が、シッターに業務委託で保育を依頼するとき、契約書で決めることは報酬だけではありません。資格や研修の確認、保育の記録、事故やヒヤリハットの報告、保護者への説明への協力。子どもの安全に関わる約束が、契約の中心になります。
家事代行のスタッフとの業務委託と共通する部分(労働者性・報酬の決め方・フリーランス法)は家事代行スタッフとの業務委託契約書で詳しく扱っています。このページでは、ベビーシッターに特有の点を中心に整理します。
資格と研修の確認
届出をしたベビーシッターには、国の認可外保育施設指導監督基準が適用され、保育に従事する全ての者が、保育士・看護師の資格を持つか、都道府県知事等が行う研修(又はこれと同等以上と認められる研修)を修了していることが求められます。事業者がシッターを手配する場合は、一人ひとりの資格・研修の修了を確認し、その記録を残します。
資格・研修・保険の失効を、無催告の解除の事由とする設計もあります。ただし、更新の手続の遅れのような事務的な失効まで直ちに解除とするかは、短い是正の猶予を置くかどうかで調整します。
届出の役割分担を整理する
ベビーシッターの届出は、保育を行う「設置者」が行います。事業者がシッターを雇用又は業務委託で手配し、自ら保護者と契約する形なら、事業者が設置者です。シッター個人が保護者と直接契約し、事業者は媒介するだけの形なら、シッター本人が設置者になります。業務委託のシッターを手配する形で、どちらが設置者かは事業の実態によって判断が分かれることがあるので、届出先の自治体に事前に相談しておくと確実です。
契約書では、届出、毎年の報告、契約成立時の書面の交付、掲示を、誰が行い、相手方がどう協力するかを書いておきます。シッター本人が届出をする形なら、届け出た内容の変更(住所・保険・研修の受講状況など)を事業者に知らせる義務も入れます。
保育の記録と、事故・ヒヤリハットの報告
条文例第◯条(記録及び報告)
- 受託者は、個別業務ごとに、睡眠中の確認の記録を含む保育の記録を作成し、事業者の定める方法により提出します。
- 受託者は、保育中に事故、けが、急病、ヒヤリハットその他これらに準ずる事態が発生し、又は発生するおそれがあることを認めたときは、直ちに事業者に報告し、事業者の求めに応じて報告書を提出します。
- 受託者は、事業者が利用者に対し前項の事態について説明する場合、必要な協力をします。
- 受託者は、事故又は苦情があった個別業務に係る記録を、事業者の指示があるまで消去してはなりません。
報告の期限と方法が契約にないと、事業者が保護者に説明しなければならない場面で、何が起きたのかが分かりません。ヒヤリハットまで報告の対象に含めると、事故の予防にもつながります。
保育の記録は、事故のときにシッターが注意義務を尽くしたことを示す証拠になります。記録の保存期間を決め、事故や苦情があった場合は解決するまで消去しない、と書いておきます。
指揮命令と業務委託の緊張
自治体のベビーシッター利用支援の制度の中には、事業者が保護者と請負の契約を結ぶことや、シッターに対する指揮命令の権限が事業者にあることを、対象事業者の要件とするものがあります。これに合わせて、シッターとの業務委託契約に「事業者の指揮命令に従う」と書くと、労働者性の判断で、指揮命令の要素を自ら認めることになります。
制度の要件と、業務委託の性質を両立させるには
- 指揮命令の対象を、子どもの安全と保育の品質に関する指示に限定し、保育の進め方の細部はシッターに委ねる書き方を検討します。
- 案件ごとに受けるかどうかを自分で決められること、報酬が役務の対価として決まっていることなど、独立性の要素を他の条文でそろえます。
- 制度の要件を満たしつつ業務委託の性質を保てるかは、制度を所管する自治体と、社会保険労務士に確認したうえで設計します。雇用で受け入れることも選択肢です。
題名は「請負契約書」なのに、本文に「乙は甲の指揮命令に従う」といった条項が置かれている例を見かけることがあります。契約類型の説明と労働者性の両面で弱い典型なので、見直しの対象になります。
代わりのシッターと補助者
ベビーシッターは、保護者の信頼が人に付いている仕事です。シッターが自分の判断で別の人に保育を任せることを広く認めるのは難しいので、補助者を使う場合や代わりの人に任せる場合は、事前に事業者の承認を得る、とするのが一般的です。シッターが体調不良などで保育できなくなったときは、速やかに事業者に連絡し、代わりのシッターの手配は事業者が行う、と役割を分けておきます。
報酬・キャンセル・宿泊の保育
報酬は、時間単価ではなく、保育の区分ごとの定額と延長の加算で決めると、時間給の外形を避けやすくなります。送迎を伴う場合の加算も別に定めます。利用者のキャンセルの場合は、利用者に適用されたキャンセル料の割合に応じて報酬を支払う、という比例のルールにしておくと、料金体系が変わっても条文が使えます。
夜間や宿泊を伴う保育は、滞在そのものが役務になるため、時間の拘束の評価が強まります。宿泊の保育を業務委託で受けるか、雇用のシッターが担当するかは、業務委託の性質との関係で慎重に検討します。
守秘・SNS・直接契約の禁止
- 業務上知り得た家庭と子どもの情報を、契約の終了後も期間を区切らずに秘密として保持する
- 利用者の家での写真・動画の撮影と、SNSへの投稿を、利用者と事業者の事前の同意なく行わない
- 利用者との連絡は事業者の公式アカウントを通じて行い、個人の連絡先を伝えない
- 事業者の紹介で知った利用者と、事業者の承諾なく直接契約しない(期間を限り、もともとの顧客を除く)
- 名目を問わず、利用者から金品を受け取らない
- 法令に基づく虐待の通告は、秘密保持の義務に違反しない
身元保証と、犯罪歴の確認
雇用のシッターについて身元保証人を立ててもらう場合、個人の身元保証人との契約には、保証の上限額(極度額)を定めなければ効力がありません(民法465条の2)。期間は、定めがない場合は3年、定める場合も5年を超えることができない、という身元保証に関する法律の制限もあります。業務委託のシッターに身元保証人を求めると、雇用に近い管理と見られるおそれがあるので、保険の加入、本人確認書類・資格証の提出、届出の確認で代える方が整合的です。
子どもに関わる仕事をする人の性犯罪歴を確認する仕組みとして、いわゆる日本版DBSの制度(こども性暴力防止法)が設けられています。認可外保育施設などの民間の事業者は、認定を受けた場合に対象になる仕組みなので、施行の状況と、自社が認定の対象になるかを確認しておきます。それまでの間に犯罪歴の申告を求める場合、犯罪の経歴は要配慮個人情報に当たり、取得には本人の同意が必要です。取得の必要性と範囲を慎重に設計します。
保育の報告の仕様は、評価ではなく事実で書く
保育の様子を保護者に報告するとき、写真や文章の報告の様式を事業者が指定することは、仕様として差し支えありません。ただし、「温かく伝わる」「安心して読める」のような評価的な基準を義務の内容にすると、報告が足りているかの判断が事業者の評価に委ねられ、査定の外形になります。「写真を何枚以上」「観察した事実を何文字以上、食事・睡眠・体調の変化を含めて」のように、事実の種類と量で書き、評価的な表現は仕様書の目的の欄に移します。撮影が適当でない場面では、その理由を報告すれば足りる、と書いておかないと、撮影できないこと自体が契約違反になってしまいます。
届出に伴う書面の交付や掲示の内容はベビーシッターの届出、保護者と交わす確認書や同意書の作り方はベビーシッターの利用規約、シッターに渡す子どもの情報の扱いは家庭の情報・子どもの情報の扱いで解説しています。
フリーランス法と、損害の分担
シッターが従業員を使用しない個人なら、フリーランス法の対象です。業務の内容・報酬・支払期日の明示、60日以内の支払期日、ハラスメント対策、継続的な業務委託の中途解除の予告などの義務がかかります。保護者からのハラスメントに備えた相談窓口は、利用者向けの規約の禁止事項と対で整えます。
保育中の事故で事業者が保護者に賠償した場合の分担は、事業者の賠償責任保険で対応し、シッターには故意又は重大な過失がある場合に限って求償する、という設計が一般的です。シッター自身のけがへの備えとして、労災保険の特別加入や傷害保険への加入を、要件にするか推奨にするかも決めます。
ご相談の場面から:シッターとの契約のご相談
- 業務委託のシッターに、研修の受講を義務づけてもよいですか?
- 保育に従事する人の研修の修了は、指導監督基準で求められる事項なので、受講済みであることを受託の条件にすることは差し支えありません。ただし、事業者独自の研修への参加を無報酬で求めることは、フリーランス法の不当な経済上の利益の提供の要請に当たらないかを検討します。研修の位置づけと報酬の扱いを契約で決めておきます。
- シッターが保護者から直接、次回の依頼を受けてしまいました。
- 契約に、事業者の紹介で知った利用者との直接契約の禁止と、個人の連絡先の交換の禁止を置いておけば、それに基づいて対応できます。今後のために、利用者向けの規約にも引抜きの禁止を置き、連絡は事業者の公式アカウントを通じて行う運用をシッターと保護者の双方に示しておきます。
よくあるご質問
ベビーシッターとの業務委託契約書に必ず入れる条項は何ですか?
資格・研修の確認と維持、届出・報告の役割分担、保育の記録、事故・ヒヤリハットの報告、守秘とSNSの禁止、直接契約の禁止、補助者・代わりのシッター、報酬・キャンセル・延長、保険と損害の分担、虐待の通告、契約の解除です。
業務委託のシッターの届出は、誰がしますか?
保育を行う「設置者」が届け出ます。事業者がシッターを手配して自ら保護者と契約する形なら事業者が、シッター個人が保護者と直接契約する形ならシッター本人が設置者になります。判断が分かれる場合は、届出先の自治体に事前に相談します。
シッターに事故の報告を義務づけるときの注意点は?
報告の期限(直ちに)、方法、報告書の提出、保護者への説明への協力を定め、ヒヤリハットまで対象に含めます。事故や苦情があった案件の記録は、事業者の指示があるまで消去しないことも定めます。
業務委託のシッターにも身元保証人を求めてよいですか?
雇用に近い管理と見られるおそれがあります。保険の加入、本人確認書類・資格証・研修の修了証の提出、届出の確認で代える方が整合的です。雇用のシッターの身元保証では、極度額の定めが必要です(民法465条の2)。
自治体の補助制度で「指揮命令権が事業者にあること」が求められています。業務委託のままで大丈夫ですか?
指揮命令を事業者に置くと、労働者性の判断で不利な要素になります。指揮命令の対象を安全と品質に関する指示に限定する、独立性の要素を他の条文でそろえる、雇用で受け入れるなどの方法を、所管の自治体と社会保険労務士に確認したうえで設計します。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の事業に必要な条項は、サービスの内容、スタッフとの契約の形(雇用・業務委託)、申込みの受け方、利用者が事業者か個人かによって異なります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた家事代行・ベビーシッター・訪問型サービスの利用規約、申込書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / こども家庭庁 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド