このページの要点
- 利用目的をできる限り特定し、プライバシーポリシーで公表する(個人情報保護法17条1項・21条1項)。
- 病歴などの要配慮個人情報を取得するときは、あらかじめ本人の同意を得る(同法20条2項)。子どもの情報は、保護者から同意を得る。
- 雇用するスタッフには従業者の監督(同法24条)、業務委託のスタッフや外部の委託先には委託先の監督(同法25条)が必要。守秘義務を契約で定め、必要な情報だけを渡す。
- 作業の報告に写真を使う場合や、見守りカメラに映るスタッフの扱いも、規約と同意の取り方を決めておく。
訪問型のサービスは、暮らしの情報を預かる仕事
家事代行やベビーシッターのスタッフは、仕事を通じて、利用者の住所や連絡先だけでなく、家の間取り、在宅・不在の時間帯、家族構成、生活の習慣、貴重品の場所、鍵の管理の方法まで知ることになります。ベビーシッターなら、子どもの健康状態やアレルギー、家庭の事情に触れることもあります。
こうした情報は、個人情報保護法上の個人情報に当たるものだけでなく、利用者にとって外に出したくない「暮らしの情報」です。何を集め、誰に見せ、いつ消すかを決め、プライバシーポリシーと規約、スタッフとの契約の3か所に書いておきます。
利用目的を特定し、公表する
個人情報を取り扱うときは、利用の目的をできる限り特定し(個人情報保護法17条1項)、取得の前に公表するか、取得の後に速やかに本人に通知・公表します(同法21条1項)。申込書や申込みフォームで本人から直接受け取る場合は、あらかじめ利用目的を明示します(同条2項)。家事代行・ベビーシッターのプライバシーポリシーでは、利用目的を次のように具体的に書きます。
- サービスの提供(訪問の日程の調整、担当スタッフの手配、作業の報告)
- 安全の確保(緊急時の連絡、救急隊・医療機関への情報の共有)
- 料金の請求と支払の管理
- お問い合わせ・苦情への対応
- 事故・紛争への対応(法的手続での主張・立証を含む)
- サービスの改善、新しいサービスの案内(案内を望まない場合の停止の方法も示す)
「事故・紛争への対応」を利用目的に入れておくと、事故のときに記録を使うことが目的の範囲内であることがはっきりします。
子どもの健康の情報と、要配慮個人情報
病歴、心身の機能の障害、健康診断の結果、医師による診療を受けたことなどは、要配慮個人情報に当たります(個人情報保護法2条3項)。子どもの持病・既往歴・常用薬、産前産後の母体の状態、高齢者の病気や障害の情報は、多くがこれに当たります。要配慮個人情報を取得するときは、あらかじめ本人の同意を得るのが原則です(同法20条2項)。子どもの情報は、一般に、保護者(法定代理人)から同意を得ます。
健康の情報を集める順番
- 予約のフォームには、健康の情報を書く欄を設けません。備考欄にも「健康の詳細は書かないでください」と案内します。
- サービスの契約と、緊急時の対応・情報の共有の同意書の手続が終わった後に、健康の情報を受け取る専用のフォームを送ります。
- LINEなどのチャットでは、病歴やアレルギー、服薬の詳細を詳しく集めません。チャットは見られる人の範囲が広く、権限の管理も粗くなりがちです。
- 保険証の番号・画像、マイナンバー、診療記録の画像、母子手帳の全ページなど、サービスに必要のない情報は集めないと決め、フォームにも明記します。
この順番を契約書に「健康に関する情報を受け取るフォームは、本契約と同意書の手続が完了した後、サービスの提供の開始前に送付する」と書き、スタッフ向けの運用の手引きにも明記しておくと、順番が入れ替わることを防げます。
スタッフへの共有と、委託先の監督
利用者の情報をスタッフに伝えるときは、担当する業務に必要な範囲に限ります。雇用のスタッフには従業者の監督の義務(個人情報保護法24条)、業務委託のスタッフや、予約・決済のシステムの事業者には委託先の監督の義務(同法25条)があります。委託に伴う提供は第三者への提供に当たりませんが、監督の義務は残ります。
条文例スタッフとの契約に置く個人情報の条項(骨子)
- 受託者は、事業者から提供を受けた個人情報を、担当する個別業務の履行に必要な範囲に限り利用し、その範囲を超えて閲覧し、又は取得してはなりません。
- 受託者は、個人情報の漏えい、滅失又は毀損を防止するために必要かつ適切な措置を講じます。
- 受託者は、事業者の事前の承諾なく、個人情報の取扱いを第三者に委託してはなりません。
- 受託者は、個人情報の漏えい等が発生し、又は発生したおそれがあることを知ったときは、直ちに事業者に報告し、事業者の指示に従います。
- 受託者は、本契約が終了したときは、事業者の指示に従い、個人情報を返還し、又は消去します。ただし、事故又は苦情があるときは、事業者の指示があるまで消去してはなりません。
要配慮個人情報が漏えいした場合は、1件でも個人情報保護委員会への報告と本人への通知の対象になります。報告の主体は事業者なので、スタッフからの報告が遅れないよう、「直ちに」と書いておきます。
LINEの公式アカウントなどでスタッフと利用者の連絡を行う場合は、権限の付与と削除を事業者の管理者だけが行い、スタッフには必要最小限の権限だけを与え、担当の終了・契約の終了のときに速やかに権限を削除する、という運用を、スタッフとの契約と利用者との契約書の両方に書いておきます。
秘密保持:不在の情報と鍵の情報は特に重い
スタッフとの秘密保持の条項では、利用者の不在の時間帯や鍵の管理の方法といった情報の扱いに注意します。秘密保持の条項には、「開示を受ける前から知っていた情報」などを秘密の対象から外す一般的な除外の定めがありますが、これが不在の情報にまで及ぶ書き方だと、「もともと知っていた不在の情報なら第三者に話してよい」と読めてしまいます。除外の定めは一般の秘密情報に限り、不在の情報・鍵の情報には及ばない、と書いておきます。家庭の暮らしの情報と子どもの情報は、契約の終了後も期間を区切らずに秘密として保持する書き方がよく使われます。
外部のサービスと、外国にある第三者
予約のフォーム、メッセージアプリの公式アカウント、アクセス解析、育児記録のアプリなど、外部のサービスで利用者や子どもの情報を扱う場合は、サービスを運営する会社の所在国と、データがどこで扱われるかを確認します。外国にある第三者に個人データを提供する場合は、国内の委託先に渡すのと同じ感覚で「委託だから同意は要らない」とはいえず、外国にある第三者への提供の規定(個人情報保護法28条)が問題になります。
事務所が手がけたプライバシーポリシーの改訂では、フォームの運営会社、メッセージアプリの運営会社とそのグループ会社による海外からのアクセス、アクセス解析の3つについて、運営会社の公表資料で確認したうえで、提供先の所在国の名称、その国の個人情報の保護の制度、提供先が講じる措置についての情報の提供と、同意の取得を原則とする構成に改めました。内容に触れない単なる保管のサービスなど、第三者への提供に当たらない整理ができる場合もありますが、その場合も、外国で個人データを取り扱うことは安全管理措置として公表する事項になります。
写真・動画の掲載と、親権者の同意
保育や作業の様子をホームページやSNSに載せる場合は、撮影と掲載について、別に同意書をもらいます。媒体ごと(ホームページ・SNS・パンフレット・社内研修の資料)に、顔が分かる形での掲載・顔を隠した掲載・掲載しない、を選べる形にすると、利用者が同意しやすくなります。
離婚後も父母の双方が親権者となる場合がある制度が導入されたことで、子どもの写真の掲載について、一方の親の同意だけでは足りない場面が生じ得ます。親権者全員の同意を原則とする書き方にしておくと安全です。
見守りカメラと録音
保護者が家の中に設置した見守りカメラには、スタッフやシッターが映ります。規約で、カメラの設置を事前に知らせてもらうこと、録画の目的を子どもの安全や作業の確認に限ること、録画をSNSなどで公開しないことを決めておきます。事業者の側が、記録のためにスタッフに撮影の機器を持たせる場合も、利用目的、利用者への告知、保存期間、第三者への提供の扱いを、規約とスタッフとの契約で決めます。
共同利用と、企業向けの訪問サービス
グループ会社や提携先と、利用者の情報を共同で利用する場合は、共同で利用すること、利用する情報の項目、利用する者の範囲、利用の目的、管理について責任を有する者の氏名又は名称・住所(法人は代表者の氏名)を、あらかじめ本人に通知するか、本人が容易に知ることができる状態に置く必要があります(個人情報保護法27条5項3号)。子どもの健康の情報や事故の記録まで共同利用の対象に含める場合は、その必要性を慎重に検討します。
企業の事業所に出向いて従業員にサービスを提供する訪問型の事業では、従業員の健康の情報を、本人から同意を得て直接受け取り、法令に基づく場合や本人の同意がある場合などを除いて、取引先の企業(人事部門を含む)には渡さない、と契約に書いた例があります。家庭向けのサービスでも、費用を負担する家族と、サービスを受ける本人が違う場合に、誰にどこまで報告するかを決める参考になります。
保存期間と、紛争のときの保存
作業や保育の記録、健康の情報をいつまで保存するかも決めておきます。サービスの終了から一定の期間(例:3年)保存し、その後は復元できない方法で消去する、という定めが一般的です。ただし、事故が起きた場合や紛争になった場合は、解決するまで保存期間を延ばす、と書いておきます。人の生命・身体の侵害による損害賠償の請求権は、時効の期間が長く定められているので、人身の事故の記録は特に長めに保存します。
開示などの請求への対応
利用者から、自分の情報を見せてほしい、間違っているので直してほしい、使うのをやめてほしい、という請求を受けることがあります。保有個人データについては、本人からの開示・訂正・利用停止などの請求に応じる手続を定め、その手続をプライバシーポリシーで示しておく必要があります。請求を受け付ける窓口、本人であることの確認の方法、手数料の有無、回答の方法を書いておきます。子どもの情報についての請求は、法定代理人である保護者から受け付けます。
作業の記録や保育の記録には、スタッフやシッターの観察の内容も含まれます。開示の請求があったときに、スタッフの個人情報や第三者の情報まで一緒に開示してしまわないよう、記録の様式を作る段階で、利用者に関する事実とスタッフの個人的な情報を分けておくと対応しやすくなります。鍵や不在の情報の管理は鍵の預かり、スタッフとの契約での情報の条項は家事代行スタッフとの業務委託契約書、写真・同意書の運用はベビーシッターの利用規約、マッチングサービスでのメッセージの確認はマッチングサービスの規約もあわせてご覧ください。
情報が漏れたときの対応の流れ
個人情報の漏えいが疑われるときの対応(例)
- 発覚
スタッフや担当者は、直ちに事業者の責任者に報告する。スマートフォンの紛失、誤送信、アカウントの乗っ取りなど、原因を問わない。
- 初動
被害の拡大を防ぐ(アカウントの停止・パスワードの変更・誤送信先への削除の依頼)。何の情報が、何人分、誰に渡った可能性があるかを確認する。
- 報告と通知
要配慮個人情報が含まれる場合などは、個人情報保護委員会への報告と、本人への通知が必要になる。速報と、確報の期限に注意する。
- 再発防止
原因を確かめ、運用やスタッフとの契約を見直し、利用者に説明する。
契約者と、サービスを受ける人が違う場合
遠方に住む子どもが高齢の親のために家事代行を申し込む場合のように、費用を負担する契約者と、サービスを受ける人が違うことがあります。サービスを受ける人の健康の情報を、誰から同意を得て受け取り、作業の報告を誰にどこまで伝えるかを、同意書で決めておきます。契約者だからといって、サービスを受ける本人の情報をすべて伝えてよいとは限りません。
ご相談の場面から:個人情報の扱いのご相談
- 申込みにGoogleフォームを使い、連絡はLINE公式アカウントで行っています。プライバシーポリシーに何か書く必要がありますか?
- 運営会社の所在国と、データの取扱いの場所を、運営会社の公表資料で確認します。外国にある第三者への提供に当たる場合は、提供先の国の名称、その国の制度、提供先の措置についての情報の提供と、同意の取得の方法を、プライバシーポリシーと申込みの流れに組み込みます。当たらない整理ができる場合も、外国で個人データを扱うことは安全管理措置として公表します。
- 子どものアレルギーの情報を、予約フォームの備考欄で受け取っています。
- 健康の情報は要配慮個人情報に当たることが多く、取得には保護者の同意が必要です。予約の段階では受け取らず、契約と同意書の手続の後に、専用のフォームで受け取る順番に改めることをお勧めします。すでに受け取った情報は、利用目的の範囲で厳重に管理し、不要になれば消去します。
よくあるご質問
家事代行・ベビーシッターのプライバシーポリシーに何を書けばよいですか?
取得する情報、利用目的(サービスの提供・安全の確保・請求・問合せ対応・事故や紛争への対応など)、第三者への提供と委託、外国にある第三者への提供、安全管理措置、保存期間、開示などの請求の手続、問合せ先を書きます。
子どものアレルギーの情報を受け取るのに、同意は必要ですか?
健康に関する情報は要配慮個人情報に当たることが多く、あらかじめ保護者(法定代理人)の同意を得て取得します(個人情報保護法20条2項)。予約の段階ではなく、契約と同意書の手続の後に、専用のフォームで受け取るのが安全です。
スタッフに利用者の情報を伝えるときの注意点は?
担当する業務に必要な範囲に限って伝えます。雇用のスタッフには従業者の監督、業務委託のスタッフには委託先の監督の義務があります(同法24条・25条)。スタッフとの契約に、目的外の利用の禁止、安全管理、漏えい時の直ちの報告、終了時の返還・消去を定めます。
子どもの写真をSNSに載せるとき、片方の親の同意で足りますか?
親権者全員の同意を原則とし、一人で署名する場合は、単独の親権者であること又は他の親権者の同意を得ていることを表明してもらう同意書にしておくと安全です。媒体ごとに掲載の可否を選べる形にし、撤回の方法も示します。
作業や保育の記録は、いつまで保存すればよいですか?
サービスの終了から一定の期間(例:3年)保存し、その後は復元できない方法で消去する定めが一般的です。事故や紛争があった場合は、解決するまで保存期間を延ばすと定めておきます。
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